内部
その窓は閉ざされたままだった
中には誰もいなかった
机の上はきちんと片付いていた
読みさしの本が置いてあり
インクの壺はからからに乾いていた
これから何かがはじまるようにみえた
もう終わったあとかもしれなかった
とにかくひっそりかんとしていた
壁には古びた人物像の
眼だけが大きくかがやいていた
それに追い立てられるように
窓枠のすきまから覗いていたてんとう虫は
向きをかえ背中を二つに割って
燃える光の中へ飛び去った
木下夕爾 Kinoshita Yuuji:詩人・俳人(1914〜1965)
広島県福山市御幸町出身。府中中学(現・府中高校)時代から詩作を始める。
薬局を営むかたわら、文学活動を続けた。第一詩集「田舎の食卓」で文芸汎論詩集賞を受賞。その後、詩集を刊行し、戦争期から句作も始めた。
‘46久保田万太郎主宰「春燈」に参加。
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